看護師さんが知らないと損するコツを臨床工学技士が伝授します

毎日多くの看護師さんや先生から医療機器の使用方法や操作のコツについて相談を受けます。頂いた相談に対する答えをブログを通してみなさんに伝えることにより、少しでも多くの人の悩みや疑問を解消できるお手伝ができればと思いブログの開設を行いました。

輸液ポンプで発生するフリーフローの原因と対策

今回は輸液ポンプ使用中に発生する可能性があるアクシデントの中で、フリーフローについてお話していきます。

輸液ポンプは使用することで、薬液の粘性や血管抵抗などに影響されることなく正確に安定して薬液を投与するこができます。しかし、誤った操作をすると過剰な投薬や血管に過剰な圧がかかってしまうことがあります。正しい使用方法や発生する可能性のあるアクシデントを知ることで安全に機器を使用していくことができます。

 

 

 

 

フリーフローとは何?

フリーフローとは輸液ポンプを使用中・使用後に、薬液が輸液ポンプに流量制御されずに患者に投与されることをいいます。

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輸液ポンプ使用中のフリーフロー

 

フリーフロー事例と予防方法にはどのようなものがあるの?

フリーフローの発生原因は1つではなく、複数の原因があります。今回は4つの事例を紹介していきます。

 

①「輸液ポンプドア解放時のクレンメ閉め忘れによるフリーフロー」

輸液ポンプを使用中に閉塞警報や気泡警報などが発生して一時的に輸液ポンプから外す場合、また使用後に輸液ポンプから輸液セットを取り外す際に誤って輸液セットのクレンメを閉じ忘れてしまうと、輸液バックの中に残っていた薬液が患者に急速に大量投与されてしまいます。輸液バックに残っている残量が多い場合、10分かからずに500ml以上投与されてしまうこともあります。

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フリーフロー

事例として、輸液ポンプを使用してヘパリン投与している患者がいました。500mlの生食に14,400単位のヘパリンが入った薬液を交換した直後、MRI検査に呼ばれ、MRI室に金属類は持って入れないと考えたスタッフが、輸液ポンプから輸液セットを外し、さらに流量調節することなくクレンメを全開のままにしたためフリーフローにより全量投与されてしまったアクシデントが報告されています。幸い患者さんに大きな影響は発生しなかったとのことです。

 

輸液ポンプドア解放時のクレンメ閉め忘れによるフリーフロー対策として、

一番重要なことは輸液ポンプのドアを開ける前には必ずクレンメを閉じることです。

使用中・使用後に輸液ポンプから輸液セットを取り外す際には必ずクレンメを閉じるようにします。一時的だからといってルートを手で抑えることをしていると、緊急時などにクレンメを閉め忘れてしまい、フリーフローが発生してしまいますので、クレンメを閉じることを習慣づけるようにしましょう。

 

また、輸液ポンプのドアを開けると連動して閉じるクリップが使用できる輸液ポンプの導入をすることも対策になります。各メーカーから発売されているので機器更新時などに検討してみることも良いと思います。

 

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フリーフロー防止クリップの導入

 

 

 

②「輸液セットの誤装着によるフリーフロー」

輸液セットをポンプに装着する際、正常な装着方法はフィンガー部にまっすぐ装着しますが、誤装着図のようにフィンガー部に沿わずに装着するとフリーフローが発生してしいます。

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輸液ポンプのフタを閉めた時、輸液セットはフィンガーの一部とフタで押さえられているため、薬液が流れることはありません。

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輸液セット装着時の輸液ポンプ内部

しかし、フィンガー部に輸液セットが装着していないと押さえることができないためフリーフローが発生してしまいます。

 

事例として、病棟で使用するために輸液セットを装着したら輸液ポンプを作動させていないのに薬液が流れる、との相談を受けたことがありました。使用場所に行ってセッティング状況を確認したところ、輸液セットが正しくフィンガーに沿って装着されていなかったため、フリーフローが発生していたことがわかりました。

 

輸液セットの誤装着によるフリーフロー対策としては、

輸液ポンプに輸液セットを装着後、薬液が落ちてこないか点滴筒を確認することが大事です。

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輸液ポンプにセット後の滴落確認

機種によっては、輸液セット誤装着をアラームでお知られしてくれる輸液ポンプや、滴落検知器という薬液の流れを監視する機器を搭載している輸液ポンプもありますので、それらを導入することで対策することもできるかと思います。

 

 

③「機器破損によるフリーフロー」

輸液セットのを輸液ポンプに正しく装着しているにも関わらず薬液が流れる事象があります。

 

原因は機器部品の破損です。輸液ポンプドアの輸液セットを押さえる部品が薄くなってしまったことで輸液ポンプのフタとフィンガーの間に隙間ができたことで輸液セットを閉塞させることができず、フリーフローが発生してしまうことがあります。

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機器破損によるフリーフロー対策として、

このようなケースでは異常に気付くまでに時間がかかることが考えられます。

輸液セットの誤装着によるフリーフロー対策と同じように、輸液セットを装着後、薬液が落ちてこないか点滴筒を確認することが大事です。また、薬液投与中の定期的な残量確認を行うことで異常に気付くことができる場合があります。

 

投与時間が予定より早く終わった場合などは機器をそのまま使用しないで、臨床工学技士に点検してもらいましょう。

 

 

④「輸液セットの誤った取り外しによるフリーフロー」

機種によっては輸液セットのローラークランプを輸液ポンプ内部に収納し、輸液ポンプのフタを開閉することに連動してローラークランプが開閉しする素晴らしい発明の輸液ポンプもあります。

①ローラークランプを閉じた状態で輸液ポンプにセットし、輸液ポンプのフタを閉めると連動してローラークランプが開き、機器が動けば輸液が開始されます。

②使用後などに輸液ポンプのフタを開けると連動してローラークランプが閉じるため、ローラークランプを閉め忘れることがなく、輸液セットを取り外した際のフリーフローを防止することができるようになっています。

③しかし、輸液セットを取り外す際、下側から無理やり外してしまうと、閉じていたローラークランプが開いてしまう場合があり、フリーフローを発生させてしまう危険性があります。

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輸液セットの誤った取り外しによるフリーフロー対策としては、輸液ポンプから輸液セットを取り外す時には、必ずローラークランプが完全に閉じていることを確認し、チューブクランプを解除してから取り外すようにしましょう。

 

フリーフローを防止するために

フリーフローを防止するために一番重要なことは輸液ポンプのドアを開ける前には必ずクレンメを閉じることです。ふとした瞬間に忘れてしまうことがあるかもしれませんので、薬液が入っていないバックを取外す際にもクレンメを閉じる習慣をつけるようにしましょう。

 

また、輸液ポンプにセッティングしたあともフリーフローが発生する可能性がありますので、点滴筒を確認して薬液が落ちてきていないことの確認、投与中は定期的に残量の確認を行うようにしましょう。

 

フリーフロー対策で一番良いことは、フリーフローが発生した場合にすぐに気が付けるよう常に点滴筒の流れをみていることが良いと思います。

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フリーフローがないように監視

しかし、それは現実的ではありませんね・・・

 

 

機種によっては滴落検知器という薬液の流れを監視する機器を搭載している輸液ポンプもあります。常に薬液の流れを監視し、予定よりも多く入っている場合にはアラームでお知らせしてくれるので、フリーフロー対策にとても有効な機能になります。

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滴落検知器の活用



今回はフリーフローについて4種類の事例と対策について説明いたしました。

フリーフローが発生すると薬液によっては患者さんに重篤な症状を起こしてしまう危険性があります。また、患者さんだけでなく、アクシデントを発生させた本人も大変辛い思いをしてしまいます。

そのようなことが起きないように参考にしていただければと思います。

 

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