今回はハイフローセラピーとはどのような療法なのか、使用中の観察点や注意点なども併せて説明していきたいと思います。
- ハイフローセラピーとはどのような治療なのか。
- 高流量を投与しても大丈夫なの?
- ハイフローセラピーはどのような効果があるの?
- ハイフローセラピーはどのような場合に使用する?
- ハイフローセラピー装着時のコツ
- ハイフローセラピーを使用しながら移動できるの?
- 使用中の注意事項
ハイフローセラピーとはどのような治療なのか。
ハイフローセラピーとは、高流量酸素療法(high flow therapy:HFT)や、高流量鼻カニュラ酸素療法(high flow nasal cannula:HFNC)、ネーザルハイフロー(nasal high flow:NHF)などと呼ばれています。
自発呼吸だけでは酸素化を維持することが難しい患者さんの呼吸補助や症状改善を目的として使用されます。また、呼吸補助を目的とした加湿のために使用している施設もあります。
近年ではハイフローセラピーはNPPVと比べて簡便に導入でき、食事や会話がしやすく治療効果が大きいことから多くの施設で使用されており、2022年4月からは在宅で成人に対してハイフローセラピー(高流量酸素療法)を行う場合にも診療報酬の加算が算定できるようになり、在宅ハイフローセラピー装置加算という名目で1,600点を算定できるようになりました。しかし、小児のハイフローセラピーは含まれなかったため大変残念に思いました。ちなみに、在宅ハイフローセラピー指導管理料は2,400点、在宅ハイフローセラピー材料加算は100点です。今後は在宅でのハイフロー療法が増えていくことが考えられるため、訪問看護を行っている方などはハイフローに関わることが増えていくのではないかと思います。
酸素療法には「(低流量)酸素療法」と「高流量酸素療法」の2種類があります。
「(低流量)酸素療法」
患者さんの1回換気量以下の酸素ガスを投与する治療法で、
・鼻カニュラ
・酸素マスク
・リザーバマスク などがあります。
「高流量酸素療法」
患者さんの1回換気量以上の酸素ガスを常に投与して呼吸補助を行う療法です。
・ハイフローセラピー
・ベンチュリ―マスク などがあります。
ハイフローセラピーに使用するプロングは鼻プロングと挿管・気切用プロングがあります。
では、患者さんの1回換気量以上のガス流量とはどの程度のことでしょうか。
成人の場合、一般的な1回換気量は500mLで想定されることが多いため、吸気量500mlで想定して考えてみます。
吸気時間が1秒の場合、1秒間で500mLを吸うことになるので、吸入速度は500mL/秒になり、1分間の速度に変換すると、500mL×60秒=30,000mL=30Lとなり、30L/min以上投与する場合が高流量酸素療法となり、30L/min以下が(低流量)酸素療法になります。
高流量酸素療法は通常30~60L/min(最近では最大90L/minまで設定することもできます)のガスを患者さんに投与します。
小児のハイフローセラピー設定方法
通常は体重×2L/minで設定します。
例)体重が3kgの場合は6L/minで設定します。
体重×2L/minで換気が安定しない場合、体重×3L/minで設定します。
それでも安定しない場合、体重×4L/minに上げる施設もありますが、当院での経験上、体重×3L/min以上にしても換気が改善することがほとんどないため、体重×3L/minで安定しない場合はNPPVまたは挿管呼吸器管理に変更するようにしています。
高流量を投与しても大丈夫なの?
低流量を長時間使用していると不快感や痛みを訴えてくる患者さんがいるのに、高流量を流したらもっと不快感を訴えるんじゃないの?というご質問を頂くことがあります。
この不快感の原因は冷たい乾いたガスによる刺激が原因であることがほとんどになります。
ハイフローセラピーでは30~60L/minのガスを加温加湿を行いながら送気しているため、長時間使用しても冷たい乾いたガスによる刺激がなく、加湿不足による不快感を訴えることはほとんどありません。
ハイフローセラピーはどのような効果があるの?
①解剖学的死腔のCO2洗い出し効果
②吸気努力の減少
③PEEP効果
④吸入酸素濃度の安定化
⑤加湿効果 などの効果が期待できます。
ハイフローセラピーを実施したことで、気管挿管やNPPV管理の回避、人工呼吸器装着日数の短縮、死亡リスクの低減に効果があるとの報告もあります。また、皮膚トラブルの軽減や装着の受け入れが良いなどの報告もあります。
①解剖学的死腔のCO2洗い出し効果
吸気・呼気ともに常に高流量のガスが流れることによって、上気道に溜まっているCO2を洗い出すため、換気量が少ない場合でも体内に溜まったCO2を排出しやすくなる。
②呼吸仕事量の減少
患者さんが吸いたい量以上のガスが常に流れているため、吸気補助を行うことができ、呼吸仕事量を減少させることができる。
③PEEP効果
PEEPとは呼気の時にも一定の圧をかけておくことをいいます。
一定の圧がかかっていることで肺のガス量が増え、換気効率が上昇します。
ハイフローセラピーでも咽頭に一定の圧がかかりますが、口を閉じた状態と開いた状態では圧のかかり方が変わってきます。口を閉じた状態の方が圧が高くかかり、さらに酸素化もより改善されます。
④吸入酸素濃度の安定化
低流量の酸素療法の場合、例えば5L/minの酸素を投与している患者が必要とする吸気量は30L/min以上になるため、不足分の25L/min以上は大気中の21%空気を吸うため酸素濃度は下がります。また、換気量も1回ごとに異なるため吸気酸素濃度は安定しません。
しかし、ハイフローセラピーではハイフロー装置で21~100%に調節されたガスが患者さんの吸気量以上で常時供給されているため、吸気量や呼吸回数が変動しても安定した酸素濃度のガスが供給され、呼吸管理が行いやすい。
⑤加湿効果
加温加湿器で温度と湿度の調整を行いながら加湿されたガスを送気しているため、気道の乾燥を防ぎ、繊毛運動を維持しながら酸素投与が可能となっています。
ハイフローセラピーはどのような場合に使用する?
通常の酸素療法では酸素化が不十分であったり、酸素化は問題ないがCO2が溜まっている場合に使用します。また、挿管人工呼吸器管理やNPPVを離脱したあとに呼吸管理を行うためにも使用します。
NPPVを使用すると圧迫感や視界の悪さなどから拒否反応を示すこともあり、その場合ハイフローに変更することで受け入れよく呼吸補助を行えることもあります。また、慢性呼吸不全の患者さんにも有効で、今後は在宅での使用も増えていくと思います。
しかし、重症呼吸不全の患者さんには使用できないため、使用中に呼吸状態が悪化した場合にはNPPVや挿管人工呼吸器への切り替えを検討する必要があります。
ハイフローセラピー装着時のコツ
①プロングチューブ向きの変更
赤丸の部分を外して反対側に付け替えると向きを変えることができます。
プロング向きが変わることで食事や水分摂取時にチューブが邪魔にならなくなります。
②装着前に治療の説明を行い理解してもらう。
患者さんは呼吸が苦しいなか知らない機器を装着されることに不安や不快感から受け入れがうまくいかない場合があります。
事前に高流量が流れて呼吸のお手伝いをすること、音が大きく感じることもある、乾燥しないよう空気を暖かくして加湿している、など装着感を事前に説明すると受け入れが良い場合がほとんどです。
また、口呼吸が多い患者さんには、苦しい場合は鼻から送っている酸素を吸うと楽になることを伝えると、口呼吸の回数が減ることがよく見られます。
③装着時不快感を感じる場合
ハイフロー導入時から高流量を流すと、圧迫感などで不快感を示す患者さんもいます。また、NPPVを使用していて受け入れ困難な患者さんにハイフローを導入する場合も不快を感じる可能性が高いため、導入時の流量は30L/minなど少なめから始め、徐々に流量を上げていくと受け入れが良くなる場合があります。
②③の場合、患者さんとコミュニケーションをとり、どこに不快を感じているかを知り患者さんに寄り添った導入を行うことで受け入れがスムーズにいくことが多いです。
ハイフローセラピーを使用しながら移動できるの?
ハイフローセラピーをしている患者さんでも検査移動をする場合があります。
①酸素ブレンダータイプで治療を行っている場合
酸素と空気ボンベを準備して移動となるわけですが、50L/minの場合は10分で500mlガスを消費するため、現実的には酸素ブレンダーを使用して移動することはできません。
②ブロワー付きのハイフローセラピー装置の場合
Airvo2やプレシジョンフロー、コンフォートエアなどのハイフローセラピー装置にはバッテリが内臓されていません。移動中も使用したい場合は医療用外部バッテリを装着して使用することは可能です。しかし医療用外部バッテリは大変高価なため、メーカーは推奨ていませんが、安価なバッテリを機器に装着して移動中も使用している病院もあります。
③人工呼吸器での移動
人工呼吸器にはバッテリが内蔵されています。使用している人工呼吸器の内臓バッテリで長時間使用可能な場合は移動が可能です。
当院の場合は、移動用の呼吸器(ハイフロー設定あり)を使用して検査移動することがあります。その際、加温加湿器はバッテリがないため加温できませんが、チャンバー内に水があることで移動中も若干の加湿効果があり、検査中は加温加湿器の電源を入れて加温加湿できるため一緒に移動しています。
④その他の機器
酸素ボンベからのガスと大気を混ぜて高流量のガスを投与できるエアエントレーナーRT008などのデバイスを使用して移動することができます。
汎用回路と加温加湿器を使用してハイフローを行っている場合、加温器の手前に装着すると加温器と一緒に移動することが可能です。
使用中の注意事項
①加湿不足による気道閉塞や損傷
乾燥した空気を送ると気道繊毛運動の低下により痰や細菌が貯留し、分泌物の粘稠化が発生したり気道損傷を起こすことがあるため、必ず適切な加温加湿が必要になります。
使用開始後には加湿加湿器の入れ忘れがないことの確認を行い、使用中はチャンバー内の蒸留水不足がないかを定期的に確認が必要になります。
②回路内の結露発生
室温やエアコンの影響で呼吸器回路内やプロングに結露が溜まることがあります。
回路内の結露が多くなると結露が揺れて空気が振動して送気が不安定になることや、プロング部分に結露が多くなると不快感がまします。定期的に結露の確認が必要になります。
③プロングによる圧迫損傷
プロングを装着するとプロングやバンド部があたる頬や鼻中隔前面、鼻孔周辺、上唇、耳介に圧迫損傷を起こす場合があります。特に、循環不全や低栄養、皮膚乾燥などがある場合は損傷のリスクも高くなるため予防対策や定期な観察を行う必要があります。
圧迫損傷の予防策:
1.バンド固定をきつくしすぎない。
2.洗顔や清拭を行い清潔に保つ。
3.皮膚が乾燥しないよう保湿クリームを塗る。
4.皮膚保護剤を使用する。
④外部機器によるモニタリング
ハイフロー装置のほとんどの機器が回路やプロングが外れた場合でもアラームを発生させる機能がありません。このためハイフロー装置が正常に動作していても、プロングが外れた、回路の一部が破損した、回路が外れたなどのトラブルが発生しても異常に気づきにくい機器となっています。
このため、外部機器を使用してモニタリングを行い、トラブルが発生してバイタルが変化した場合でもアラームが発生して異常に気づきやすくなります。
⑤機器変更の検討
ハイフローセラピーを開始後一定時間は患者バイタルを注視し、改善が見られない場合や悪化していく場合はハイフローセラピーに執着せず、NPPVや挿管人工呼吸器管理への変更を検討していきます。
今回は以上になります。
今後は病院勤務以外の訪問看護師さんなどもハイフローセラピーに関わる機会が増えてくると思いますので、何か参考にしていただけると嬉しいです。
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