看護師さんが知らないと損するコツを臨床工学技士が伝授します

毎日多くの看護師さんや先生から医療機器の使用方法や操作のコツについて相談を受けます。頂いた相談に対する答えをブログを通してみなさんに伝えることにより、少しでも多くの人の悩みや疑問を解消できるお手伝ができればと思いブログの開設を行いました。

新生児黄疸とはどのような症状なのか。光線療法器の使用方法はどのようにおこなうのか?

今回は新生児黄疸の特徴や原因、治療に使用される光線療法器とはどのようなものなのか説明していきます。

 

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新生児黄疸は新生児のほとんどに発症する症状で、血液中のビリルビンが多くなることで生後2~3日から皮膚や白目が次第に黄色味を帯びていきます。通常は5~7日でピークを迎え、赤ちゃんに何も問題なく生後2週間ほどで自然に消えていきます。

しかし、ビリルビンが多くなりすぎるとビリルビン脳症を発症し、ミルクを飲まない、ぐったりして元気がないといった症状が現れます。さらにビリルビンが多い状態が続くと痙攣や後弓反張を起こし始め、麻痺症状などの不可逆性の症状を発症してしまいます。

 

 

新生児黄疸の種類と原因

新生児黄疸には

①生理的黄疸

②母乳性黄疸

③溶血性黄疸

④閉塞性黄疸 の4種類があり、体内にビリルビンが貯留することで黄疸が発症します。

 

生理的ビリルビン代謝方法

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ビリルビン産生の流れ

 

1.赤血球は脾臓などで壊され、赤血球の中にある黄色い色素の間接ビリルビンが血液の中にでてきます。

2.間接ビリルビン脂溶性で水に混ざることができず、代謝されることがないため排泄されることなく体内に貯留してしまいます。間接ビリルビンにはアルブミン結合ビリルビン遊離ビリルビンの2種類があります。アルブミン結合ビリルビンは肝臓に運ばれ、グルクロン酸抱合によって水に溶けやすい直接ビリルビンに変化します。

3.直接ビリルビンは胆管を通って腸管へ排泄され、うんちや尿と混ざり体外に排出されていきます。しかし、うんちの中の直接ビリルビンの一部はグルクロン酸抱合が分解され、間接ビリルビンに戻り再吸収(腸肝循環)されます。

うんちの色が茶色なのはビリルビンが混じっているからなんですね。

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①生理的黄疸とは

黄疸の大半は生理的黄疸になります。出生後、胎児から新生児になることで血液成分に大きな変化が起きます。この変化の影響で血液中にビリルビンが増えて黄疸が発症します。新生児はビリルビン代謝能がとても弱いためほとんどの赤ちゃんで黄疸が発症します。通常は悪影響を与えることはありませんが、なかには治療を必要とする赤ちゃんもいます。 

 

生理的なビリルビン増加原因は主に3つあります。

ビリルビン産生増加。

Ⓑ肝臓でのグルクロン酸抱合能が未熟。

©ビリルビンの腸肝循環亢進。

 

 

ビリルビン産生増加

お腹の中にいる胎児は胎盤の血液を通してお母さんから酸素が供給されています。しかし、エベレストの頂上にいるくらいの酸素濃度といわれるくらい酸素濃度が薄いため、効率的に体に酸素を取り込めるよう赤血球の数が1.5〜2倍程度多くなっています。赤ちゃんは生まれると自分で呼吸をするようになり、酸素を十分に取り込めるようになると、赤血球の一部が必要なくなり、不必要な赤血球は脾臓などで分解されます。また、赤ちゃんの赤血球の寿命は60~90日と通常の120日よりも短いため分解が進みます。

 

赤血球が分解されると、黄色い色素の間接ビリルビンが血液の中にでてくるため血液中のビリルビンが増加していき、体や白目が黄色くみえるようになります。通常は5~7日で血中ビリルビン値がピークを迎えます。

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Ⓑ肝臓でのグルクロン酸抱合能が弱い

、胎児はお母さんのエストロゲンホルモンにより肝臓でのグルクロン酸抱合能が抑制され、胎児のときは体の中でできたビリルビン胎盤の血液を通してお母さんに渡して代謝してもらっています。

出生後からは自分でビリルビン代謝を行っていきますが、肝臓の動きが活発になるまでに4~5日かかります。また、お母さんのエストロゲン作用が数日間残っているため、その間は肝臓でのグルクロン酸抱合が弱く間接ビリルビンが多い状態になります。

 

 

©ビリルビンの腸肝循環亢進

胎児はうんち💩を排泄することがないため、ビリルビンを自分で体外に排泄することができません。ビリルビン代謝で腸管へ排出されたビリルビンは再吸収され(腸肝循環)、胎盤を通してお母さんに渡り、ビリルビン代謝を行ってもらっています。出生後の赤ちゃんはこの再吸収(腸肝循環)が更新した状態が2週間程度続くため体内のビリルビンが増加した状態になります。

 

②母乳性黄疸

母乳に含まれる女性ホルモンが肝臓の働きを抑える作用をするため、赤ちゃんの体内でビリルビンを処理する能力が低下するため黄疸症状が発症し、長い場合には数か月続く場合があります。生理的な反応のため胎児に影響を与えることは少ないことがほとんどです。

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③溶血性黄疸

お母さんと赤ちゃんの間に血液型の不一致があると、お母さんの抗体により赤ちゃんの赤血球が破壊されることがあります。場合によっては赤ちゃんが高度の貧血を起こすほど溶血が発生することもあり、同時に高度の黄疸も発症してしまいます。

 

④閉塞性黄疸

胆汁の通り道である胆管が、生まれつきまたは出生後すぐに完全につまってしまい、肝臓から胆汁を腸管へ排泄できない症状で、胆道閉鎖症と呼ばれています。胆汁が排泄されないと脂溶性ビタミンを吸収することができなくなるため、黄疸症状以外にビタミンKが吸収できない状態が続き、血液を固まらせる能力が低下するため、脳内出血などを起こすリスクも高まります。治療には外科的手術が必要になります。

9,000人に1人の発症頻度で、男女比は0.6対1と女の子に多く発生しています。

 

 

 

新生児黄疸の治療

新生児黄疸治療の歴史

1960年代にはビリルビン脳症の赤ちゃんへ交換輸血を行ってビリルビンを下げる治療を行っていました。

1970年代になると光線治療器が普及し始め、ほとんどの高ビリルビン血症に対して光線療法で治療を行えるようになりました。

現在では光線照射器の機能も向上し、交換輸血療法を行うケースはほとんどなくなりました。血液型不適合黄疸に対してはガンマグロブリン製剤投与にて治療を行う場合もあります。

 

光線療法の歴史

日光による治療は古代から効果があることが経験的に言われていました。

18世紀中頃になると日光療養所が開設され始め、科学的にも検討されるようになりました。特に、180年頃から結核感染が世界中で広がったときに、サナトリウムと呼ばれる結核療養施設が世界各地に建設され、日光浴をすることで多大な功績を残しました。

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参照:全ては日光浴の為。19世紀後半のフランスで日光療法の為に設置された大がかりな回転式サンルーム : カラパイア (karapaia.com)

日本にも数多くの治療所が建設されました。宮崎駿監督のアニメーション映画「風立ちぬ」の主人公である堀越次郎の婚約者である里見菜穂子が結核に感染して療養している姿が描かれました。

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         映画「風立ちぬ」の1シーン・サナトリウムでの治療

 

新生児黄疸の光線療法は、1958年にイギリスのクリーマー医師によって発見されました。日光が当たる窓際に寝かせた新生児の方が黄疸が改善する傾向があることに気づき、新生児に日光と蛍光灯の光を当てることで血液中のビリルビン濃度が低下することを確認しました。

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日光浴する赤ちゃん

その後、黄疸に対して光線療法が取り入れられるようになり、現在では新生児黄疸の一般的な治療法となっています。

 

  

新生児光線療法はどのように行う?

光線療法の実際

新生児黄疸治療は赤ちゃんを裸にして皮膚に特殊な青い光を当てることによって、血中に溶けにくいビリルビンをグルクロン酸抱合することなく血中に溶けやすいビリルビンに変化させ体外に排泄することができるようになり、血中ビリルビン濃度を下げることができます。

 

治療を行う際は血液中の総ビリルビン値を測定し、経皮ビリルビン値のみで判断しないようにします。さらに、アウンバウンドビリルビン(遊離ビリルビン)は血液脳関門を容易に通過して脳細胞に神経毒作用を起こすことがあります。総ビリルビン値が異常値でない場合でも遊離ビリルビンが多い場合にビリルビン脳症が発症した報告もされているため、アンバウンドビリルビン値も測定して総合的にビリルビン値を判断して治療を行っていくことが重要になります。

 

光線療法の適応にはいくつかの基準があります。

日本で最も使用されているものは「村田・井村の基準」と「中村の基準」でしたが、近年は「森岡の基準」も広く使用されています。

 

光線療法適法基準 村田・井村の基準

中村の基準

森岡の基準
Lowモード光療法(Low PT)/Highモード光療法(High PT)/交換輸血(ET)の適応基準値

光線療法機器

以前は蛍光管やハロゲンランプが使用されていましたが、近年はLEDを使用しています。上部から照射する機器や、ベッド底面から照射する機器があります。

上部からの光線療法機器

上部からの光線治療器

下部から照射する機器を使用する場合は比較的軽度な患者さんに使用することが多いです。洋服を着たまま使用が可能で、コットに乗っている児でタオルケットをかけて使用することも可能です。

下部からの光線治療器

照射方法

光線療法を行う際に重量なポイントは以下の3つになります。

・照射面積

・機器と患者の距離

・光の強さ

 

 

治療の際は赤ちゃん全体を照射するようにします。必要に応じて光線治療器を2個・3個使用する場合もあります。

機器と患者の距離は30cmが推奨されています。

照度計があると光の強さを任意の値に調整することも可能になります。

照射計での位置調整

 

光線療法の副作用

・網膜の障害

・性腺に影響のある可能性。

・ブロンズベビー症候群

 

光線療法を動物に行った実験において眼の網膜に障害が発生した報告があります。光線療法を行う際には目に光が当たらないようアイマスクなどを装着する必要があります。(赤ちゃんが動くとアイマスクがずれることもあるため、定期的に確認するようにしましょう)また、性腺に影響があることが危惧されているのでオムツは着用して治療を行います。

また、ベビー症候群にも注意が必要です。光線療法により生成されたサイクロビリルビンが体内に蓄積すると赤ちゃんの皮膚色がブロンズ色になり、尿や血清が一過性に褐色様になることもあります。

 

さいごに

血中ビリルビン濃度は赤ちゃんによって各々違います。薬の投与量が症状によって違うことと同じように、当てる光の強さも違います。最近では光の強さを変えることができる機器も増えており、弱い光から始め、状態に応じて強い光に変更している施設も増えています。

超早産児では積極的な光線療法によって死亡率が高くなる報告もあるため、ただ強い光を当てればよいのではなく、患者に合った照射を行うことが必要になると思います。

 

 

参考文献:早産児ビリルビン脳症(核黄疸)診療の手引き