今回はNO(一酸化窒素)療法とはどのようなものなのか、生体作用はどのようになるのかなどについてお話していきます。
引用:一酸化窒素ガス管理システム | 医療機器 | 医療関連事業 | 事業紹介 | エア・ウォーター株式会社 (awi.co.jp)
近年、NO療法を行う施設が多くなってきています。これはNO療法の治療効果が高く、さらに安全性が確立されてきているからなのではないかと思います。
- 正常な新生児の肺
- 新生児遷延性肺高血圧症(persistant pulumonary hypertention of the newborn: PPHN)
- NO療法とはどのような治療なのか
- 新生児の肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全の改善
- 心臓手術の周術期における肺高血圧の改善
- NOは吸引して使用した方がいいの?
- NO療法中の注意点
正常な新生児の肺
お腹の中にいる胎児は臍帯を通してお母さんから酸素が供給されており、自分で呼吸する必要がないため胎児の肺は大量の血液を必要とせず、肺につながる血管はきつく収縮しています。
しかし、出生後は自分で呼吸をして酸素を取り入れていかなければいけないため、臍帯が切断されると換気に必要な血液が肺に流れ始めて血管が拡張していきます。
新生児遷延性肺高血圧症(persistant pulumonary hypertention of the newborn: PPHN)
しかし、なんらかの原因で肺の血管が収縮したままになることや広がりかけた血管が再収縮することがあります。そのことを新生児遷延性肺高血圧症といいます。
肺に血流が流れていかないため、酸素を投与しても受け取る血液が少ないため酸素化が改善しにくいです。
発生頻度は1~ 2/1,000出生といわれており、早産児より正期産児や過期産児に多く発生しています。
新生児遷延性肺高血圧症になると、肺小動脈の中膜が厚くなり、肺の血管抵抗が上昇することで肺動脈圧が上昇します。右室圧に圧力がかかり、卵円孔や動脈官での右左短絡が起き、静脈の血液が肺を通ることなく動脈に流れていくため酸素化されていない血液が全身に流れ酸素化が不良になります。また、体に酸素を供給しようと心臓を多く動かすため心筋が酸素を必要としますが、酸素が少ないため心筋は虚血性障害起き、三尖弁逆流を引き起こし、心拍出量が少なくなるので酸素化がより悪くなってしまいます。
新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)の原因
新生児遷延性肺高血圧症の原因には以下のようなものなどがあります。
・呼吸窮迫症候群
・妊娠中に使用された特定の薬が起因することもあります。
新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)の治療
・人工呼吸器による換気補助を行います。
・体血圧管理を行い、相対的に体動脈圧を上げることも有効となっています。
・血管拡張薬を使用して肺細動脈の拡張を行う。
・NO療法ーNOを投与して肺血管抵抗を低下させる。
NO療法とはどのような治療なのか
呼吸器療法などで改善しない場合、NO療法を行うことがあります。
NO療法とはどのようなものか説明していきます。
NOの効能と効果には
①新生児の肺高血圧を伴う低酸素呼吸不全の改善
②心臓手術の周術期における肺高血圧の改善
があります。
効能・効果に関する注意点
肺低形成や重度の多発奇形,先天性心疾患(動脈管開存,微小な心室中隔欠損または心房中隔欠損を除く)を有する患者における安全性は確立されていません。
NO療法の歴史
じつは、現在のNO療法の歴史はそんなにされてからまだそんなに時間がたっておりません。
1987年に血管の内皮細胞でNOが産生され、平滑筋に作用して血管拡張作用を行っていることが発見されました。
1991年にNOが肺の血管を拡張することが動物実験で分かり、
1992年に海外で新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)患者においてNO吸入療法を行い、良好な結果となりました。
1992年に日本で工業用NOガスを使用した治療が開始されました。
2002年10月にNOガスのアイノフロー®吸入用800ppmを使用した新生児の肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全患者を対象とした多施設オープン臨床試験が開始されました。
2008 年 7 月にアイノフロー®吸入用800ppm製造販売承認を取得。
2010年1月に「新生児の肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全の改善」に対して診療報酬が設定され、NO濃度調整を行うアイノベントという機器と一緒に販売が始まりました。
2015年8月に「心臓手術の周術期における肺高血圧の改善」に対しても診療報酬が付くようになりました。
2015年11月頃からアイノベントの後継機であるアイノフローDSに機種更新が始まり、機器が刷新されるまで3年ほどかかったそうです。
アイノフローDSは2台1セットでのレンタルが基本になります。3台目以降のレンタルは1台ずつ増やすことが可能になります。
NO投与された血管作用
NOガスは人工呼吸器等を介して肺に送られ、肺胞に到着したNOは肺細動脈の平滑筋に拡散する。肺血管のみを選択的に拡張させ、肺動脈圧を低下させる。NOは血液中に入ると直ぐにヘモグロビンと反応して作用がなくなるため、他の血圧を低下させることなく治療を行うことができます。
虚脱した肺胞がある場合、換気のよい肺胞周囲の血管を拡張することで換気血流比不均衡を改善する。
血管拡張剤では虚脱した肺胞に接する血管も拡張してしまうため、換気血流比不均衡が増悪することがある。
新生児の肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全の改善
出生後7日以内に吸入を開始。
吸入期間は96時間まで算定可能であるが、医学的根拠がある場合はさらに48間(合計144時間)算定が可能となります。
新生児の肺高血圧を伴う低酸素呼吸不全の改善時のNO投与方法
新生児の肺高血圧を伴う低酸素呼吸不全の改善の場合
吸入NO濃度は20ppmでスタート、開始後4時間は20ppmを維持するようにする。酸素化が改善してしてきたら人工呼吸器のFiO2を下げていく。
4時間経過後、酸素化が改善していれば10ppmに減量し、さらに改善がみられるようなら5ppmに減量し、状態が安定していることを確認しながら1 ppmまで徐々に減量しながら慎重に終了する。場合によって0.1ppmまで濃度を下げていく。終了時、FiO2を0.1増量しNO治療を終了し、患者状態を十分に観察する。酸素化が悪化する場合は5 ppmで再開し、12〜24時間後に治療の中止を検討する。
*NO0.1ppmの投与を0にすると呼吸状態が安定しない患児もいるため、終了後は慎重に観察が必要になります。
心臓手術の周術期における肺高血圧の改善
168時間を限度として算定でき,医学的根拠がある場合にはさらに48時間(計216時間)を限度として算定できます。(新生児のみではなく、成人でも算定できます)
弁膜症や胸部大動脈疾患、拡張型心筋症、虚血性心疾患などによる心臓手術周術期肺高血圧症に対して治療が行えます。
心臓手術の周術期における肺高血圧の改善時のNO投与方法
新生児・小児の場合
NO濃度は10ppmで開始する。十分な効果が得られない場合は20ppmまで増やすことができます。
酸素化が改善しているようであれば、5ppmまで減量し、その後徐々に下げていく。
成人の場合
NO濃度は20ppmで開始する。十分な効果が得られない場合は40ppmまで増やすことができます。
酸素化が改善しているようであれば、10ppmまで減量し、様子を見ながら5ppmにし、その後徐々に減量していく。
NOは吸引して使用した方がいいの?
投与されたNOは患者の呼気として大気開放されるため、スタッフがNO・NO2を吸入して影響がでるのではないかと危惧されてきました。NOは無臭ですが、私も使用中や点検中にNOらしき匂いを感じて環境にNO・NO2が充満しないか心配したことがありました。
メーカーからは大気開放して問題ないとの回答を頂いております。また、NO投与中のベッド周りのNO・NO2濃度を測定し、スタッフへの影響がないとの報告もされています。私も新生児の使用設定で環境NO濃度を測定しましたが、ほとんど検出されませんでしたので大気開放して使用して問題ないと考えております。
NO療法中の注意点
①NOは酸素と反応するとNO2(二酸化窒素) を生成し、高濃度の場合は気管や肺に悪影響を及ぼす危険性があります。アイノフローDSのNO2の値も確認するようにしましょう。
②保育器は常に外気を取り入れていますが、高流量酸素療法を行う場合やnCPAPを行って呼気ポートを保育器内に入れたままにすると、器内に高濃度のNO2がたまることがあるので注意が必要です。特に、高濃度のNOを使用している場合はNO2産生速度が速まるため注意が必要です。
③NOは血管内でHbと結合しMetHb(メトヘモグロビン)となる場合があります。MetHbは酸素と結合することができず、過剰に血液中に存在した場合、SPO2は正常でも低酸素血症を起こしてしまうためことがあるため、NO療法中は必ずMetHb濃度測定を行う必要があります。
さいごに
NO療法とはどのようなもの説明させて頂きました。皆様の参考になればうれしいです。
私は新生児にNO投与後すぐに反応して酸素化が改善することを何度も経験してきました。ここ数年では成人でもNO治療を行う施設も増えており、さらにカテーテル検査中の数時間でも行う施設も増えてきているそうです。安全に使用していくには事前の機器準備も必要になりますので、今後はNO療法の準備についてもお話していければと思います。
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