今回はシリンジポンプの使用方法と使用時の注意点についてお話をしていきます。
シリンジポンプはベッドサイドモニタや輸液ポンプなどのように、看護師さんが院内で頻繁に使用する医療機器の一つだと思います。
しかし、今まで正しい使用方法の教育を受ける機会がなかったり、新人研修で聞いたけどシリンジポンプを使わない期間が長く使用方法に不安がある。などの声を看護師さんから聞くことがあます。また、復職する時に機器の操作が不安という場合もあります。
国内でのシリンジポンプは、テルモ、JMS、ニプロ、トップ、アトムなど複数の機種があります。今回はテルモのシリンジポンプを使用して説明させて頂きますが、どこの会社の機器でも基本的な使用方法と注意点は同じになりますので参考にしてみて下さい。
シリンジポンプは昇圧剤などで微量の薬液を高精度で投与する場合に使用します。シリンジポンプの誤差は±3%です。
ちなみに一般的な輸液ポンプの誤差は±10%です。
使用物品の準備
まず、①シリンジポンプと②延長チューブ、③薬剤が充填されたシリンジ、④輸液スタンドを準備します。
注意点として、
⑴シリンジメーカーとシリンジポンプのメーカー設定が合っているか確認して下さい。 メーカーがずれている場合、投与設定より薬液が過剰投与されたり、過小投与される場合があります。
⑵シリンジポンプは輸液スタンドの足の上部1m前後に設置するようにしましょう。可能な限り患者さんと同じ高さに設置して下さい。
足と足の間にセットしたり、高い位置にセットすると輸液スタンドが倒れやすくなったり、サイフォニングが起きたりする危険性があります。また、2台以上セットする場合は、できるだけ高くならない位置にセットしましょう。
*サイフォニングは後半で説明していきますね。
使用方法
①電源を入れる
電源ボタンを押すとシリンジポンプのセルフチェックが始まり、正常に立ち上がることを確認して下さい。異常がある場合にはアラームでお知らせしてくれますので、使用せずMEさんに確認してもらって下さい。
②シリンジのセッティング
⒈薬液を充填したシリンジに延長チューブを清潔操作で接続します。
⒉シリンジポンプのクランプを上に持ち上げ左に回して下さい。
⒊シリンジをポンプにセットします。 その際、シリンジのフランジをスリットに正確に装着して下さい。
⒋クラッチを摘んで、シリンジの押し子部分をしっかりとスライダーフックで押さえます。
⒌クランプを回してシリンジを固定して下さい。
☆サイフォニングによるアクシデントをなくすためにも、1〜5の順序を守るようにして下さい。
⒍シリンジのサイズと機器の表示が合っていることを確認して下さい。ここがずれてしまうと、流量が大きく変わってしまいます。
③プライミング
早送りボタンを押して延長チューブ内を薬液で満たし、空気が無いことを確認し、患者さんに延長チューブを接続します。
注意点として
シリンジポンプには気泡検知器が付いていません。シリンジや延長チューブに空気が入っていてもアラームが発生しませんので、セッティング時に空気が無いことを十分注意して下さい。
④ 流量の設定
医師の指示を確認し、設定を入力して下さい。テルモの場合、ダイアルを回すことで設定ができます。他メーカーの場合、プッシュ式もあります。最低の設定流量は0.1ml//hから設定できます。
注意点
⑴思い込みで流量設定すると指示と違う設定になってしまう可能性があります。しっかりと指示簿を確認して設定して下さい。
⑵機器使用に不慣れな場合、1ml/hを設定しようとしたところ0.1ml/hと間違ってしまう危険性がありますので注意が必要です。
⑤注入の開始
開始前に再度指示の確認を行い、問題がなければ開始スイッチを押します。
⑥使用中の設定変更方法
機器動作中は間違って触っても設定が変わらないように作製されています。設定変更時は、停止ボタンを押して一旦動作を停止させ、流量の設定・確認、注入の開始を行います。
⑦シリンジ交換方法
①まず第一に行なって欲しいのが、延長チューブを鉗子や付属のクレンメなどで閉じて下さい。
閉じ忘れると、シリンジポンプからシリンジを外した時に、シリンジに残っていた薬液が一瞬で患者さんに流れてしまうことがあります。
②シリンジをポンプから外し、新しいシリンジをセットします。
③早送りを押してシリンジ先端から薬液が少し出るようにします。(この動作を行わないと開始ボタンを押しても患者さんに流れるまで時間がかかる場合があります)
④古いシリンジから延長チューブを外し、新しいシリンジへ接続します。
⑤鉗子やクレンメを外し、設定に間違いが無いことを確認して開始ボタンを押します。
ワンポイント
シリンジポンプを開始して機器が動いても、シリンジのガスケット部がゴムでできているため抵抗により患者さんにすぐに薬液が流れないことがあります。低流量の場合、設定流量に達するまで30分以上かかることもあります。病院によってはあらかじめ別のシリンジポンプで駆動させ、一定時間後にチューブの付け替えを行なっている病院もあります。
⑧アラーム発生時対応
⑴残量警報
残量が少なくなるとお知らせアラームが発生します。この時点ではポンプは動いています。停止ボタンを押すとポンプを稼働したままアラーム音を止めることができます。早急に交換を行いましょう。
⑵閉塞警報
腕や回路の屈曲や閉塞などにより閉塞警報が発生します。アラームと同時にポンプの駆動は止まります。
閉塞解除方法
①延長チューブのできるだけ患者側を鉗子やクレンメなどで閉じます。
②シリンジからシリンジポンプのフックを外して下さい。(延長チューブに溜まった薬液をシリンジに戻します)
③シリンジにシリンジポンプのフックを接続します。
④シリンジから延長チューブを外します。
⑤早送りを押してシリンジ先端から薬液が少し出るようにします。
⑥シリンジに延長チューブを接続し、鉗子を外し開始ボタンを押します。
注意点
上記の動作を行う前に閉塞を解除してしまうと、チューブ内に溜まっていた薬液が一気に患者さんに流れてしまい、バイタルが変動してしまう危険性があります。
⑶バッテリ警報
コンセントを接続し忘れたまま長時間稼働するとバッテリ残量が少なくなってアラームが鳴ります。アラーム発生した場合は速やかにコンセントを接続しましょう。
また、コンセントに断線がある場合、充電できませんのでバッテリ警報が鳴ります。他のコンセントで充電できるか確認して下さい。
ワンポイント
コンセントに接続している場合は設定流量が点灯します。コンセントに接続していないと設定流量が点滅しますので、さし忘れに気付きやすいと思いますので、使用時に確認してみて下さい。
⑨電源の切り方
電源スイッチを約3秒間長押しすると電源がきれます。
⑩シリンジ取り外し方法
患者さんから延長チューブを外すか、チューブをクレンメなどで閉じてからシリンジを取り外すようにしましょう。これを怠るとシリンジに残っていた薬液が一瞬で患者さんに流れてしまうことがあります。
サイフォニングとは
シリンジポンプの位置が患者さんより高いところにあり、シリンジの押し子を抑えていない場合、落差で薬液が大量注入されることをサイフォニングといいます。
下の写真は数十秒で 30ml 近い薬剤がサイフォニングによって流れてしまった写真になります。
瞬時の大量投与は重大なアクシデントが発生していまします。シリンジ接続時や交換、アラーム対応時に起こりやすいので十分に注意が必要です。
シリンジポンプは頻繁に使用する機器の一つですが、シリンジポンプで投与する薬剤は少量でも影響が大きい薬剤を使用しています。使用方法を間違ってしまうとアクシデントが起きてしまいますので、正しい使用方法を習得して下さい(^_-)