臨床工学技士は医療職種の中では比較的新しい国家資格になります。
看護師さんからは
「名前は聞いたことがあるけど、どのような仕事をしているのかわからない」
「MEさんは機器の勉強をしているんだから院内の全ての機器が見れるんでしょ?」
などの意見を聞くことがあります。
今回は臨床工学技士はどのような仕事をしているのかお話をしていきますね。
臨床工学技士とは
臨床工学技士は人の呼吸や代謝、循環などを補助する、呼吸器や透析装置などの医療機器を医師の指示により操作します。また、定期的・故障発生時に機器の点検・保守を行います。
1987年にできた国家資格になります。看護学校ができたのが1887年頃ですので、看護師さんよりおよそ100年あとにできた資格になりますね。
医療技術の発展にともない医療機器も高度化・複雑化しています。臨床と医療機器に精通した人材の必要性が高まり、多くの病院・クリニック、機器メーカーなどで臨床工学技士が活躍されています。
資格取得方法は以下の図のようになります。
最近では、検査技士の学校卒業後に臨床工学技士養成施設へ入り、ダブルライセンスを取得している人も増えています。
業務内容はこの後に説明していきますが、一般的に
血液浄化療法など1つの業務を極めているスペシャリストと
色々な部署で業務を行い広範囲の知識や技術を持ったジェネラリストがいます。
学校では機器の操作方法を習うことが無く、仕事を始めてから各機器の操作方法を習得するため、全員が院内全ての機器を操作することができるわけではありませんのでご了承ください(^_^;)
臨床工学技士を英語にすると『Clinical Engineer』、または『Medical Engineer』 となりますので、『CEさん』、や『MEさん』と呼ばれています。
臨床工学技士の業務内容
主な業務内容を紹介していきます。
・医療機器管理業務
院内で使用されている医療機器がいつでも安全に使用できるように、定期点検や使用後の点検、保守などを行います。また、新規機器の導入検討から廃棄まで管理を行い、経済的で効率的な運用が行えるようにしています。
また、看護師さんや医師などに各医療機器の勉強会を行い、患者さんへ安全な医療の提供ができる支えとなっています。
・血液浄化療法業務
腎臓の働きが悪くなると老廃物の蓄積や代謝機能の低下が起きます。腎臓の働きの代わりに血液中の不純物を取り除き、体内を正常な状態に維持する為に血液浄化を行います。この際に穿刺や使用する機器の操作・治療中の機器確認、定期的な機器のメンテナンスを行います。また、血液を浄化する人工膜(ダイアライザー)の選択補助なども行います。透析を行う際にはキレイな透析液が欠かせないため、透析液の清浄化にも気をつけています。
・呼吸療法業務
人工呼吸器は酸素投与のみでは酸素化が不十分だったり、強い呼吸努力や呼吸困難感がある場合に使用されます。いつ患者さんが来ても安全に使用できるよう事前に回路の組立・点検を行なっています。患者さんにあった換気設定にすることでストレスが少なく、早めの抜管を目指していくことができるため、換気設定補助なども行っています。
また、呼吸器本体や回路、マスクなどの付属品はどれが最適かの選択を行う場合もあります。
・人工心肺業務
心臓・大血管手術では、一時的に心臓と肺の機能を停止させる必要があり、人工心肺装置を用いて心臓・肺の機能を代行し、全身の血液循環・ガス交換を適正に行っています。心臓を止めた際の心筋保護などの補助操作や、自己血回収装置の操作なども行います。
・手術室業務
手術室で使用する、麻酔器や内視鏡・腹腔鏡装置、電気メスなどの使用前点検や定期点検、使用中の不具合対応などを行なっています。また、最近だとda Vinciによるロボット支援手術に関わることで安全に手術が行え、さらに保険点数も付くので臨床工学技士がいるメリットが大きいです。
・集中治療室業務
集中治療室業務には、ICU(集中治療室)・救命救急センター・NICU(新生児集中治療室) などがあります。各部署において代謝・循環・呼吸分野などと幅広い知識が必要になります。また、一般病棟では使わない機器も多いうえに、使用機器も多く機器の準備や点検・管理が大変なことがありますが、臨床工学技士の知識や発想を提案することで患者さんへより良い医療を提供することができます。
・心血管カテーテル業務
各種造影検査や血管内治療、アブレーションなどの不整脈治療などで患者さんのバイタルサイン管理や治療機器の操作を行います。また、使用するカテーテルのアドバイスなどを行い重要な役割を担っています。
・ペースメーカ/植込み型除細動器(ICD)業務
ペースメーカや植込み型除細動器(ICD)を操作する臨床工学技士の業務範囲はとても広範囲です。検査や植込み手術時のリード測定などのプログラマー操作を医師と連携を取りながら作業を実施しています。また、患者さんへ生活指導や植込み機器に異常が無いか定期的な外来や遠隔監視システムでの確認作業を行なっています。
・医療安全対策業務
病院でのインシデント・アクシデントは、患者さんに有害事象が起きていなくても、多くの事例が報告されています。薬剤や看護関連が多いですが、機器に関するアクシデントも報告されています。機器に精通しているため、発生原因の追及を行うことができます。また、看護面でのアクシデントについても看護師さんなどと違った角度からの検証や、機器の履歴参照に役立てています。
・その他の業務
高気圧酸素療法や、内視鏡業務、医療ガス管理業務、在宅医療、遠隔モニタリング業務など多くの業務に関わっています。
新しい医療機器の発明
医療の現場で医療機器に一番関与しているのが臨床工学技士だと思います。このため、新しい医療機器の開発にも大きく貢献することができます。
メーカーなどの機器作製側は、患者さんが実際にどの様に機器を使われているのかを確認する機会は少ないです。臨床工学技士には使用者とメーカーの橋渡し役や、医療機器等のニーズ情報の把握が期待されています。
アベノミクス成長戦略の1つとして「健康・医療戦略」が推し進められており、臨床工学技士も様々な機器の開発に携わっており、様々なアイデアを実現されています。
http://ja-ces.net/renkei/wp-content/uploads/2018/05/4183ffa3c2a3a5964ce00ef6f6f417dc.pdf
私も今後は特許や機器開発を行いたいと思っています😁
在宅医療で活躍する臨床工学技士
団塊の世代が2025年までに後期高齢者に達することで、介護・医療費などの社会保障費の急増が懸念され、今後は病院以外での在宅医療患者さんが増えてくることが考えられます。
在宅医療と言っても、呼吸器や酸素濃縮器、SPO2モニタを使用し、胃瘻や静脈栄養の輸液ポンプを使用したりと、ICUさながらの医療行為を自宅で行なっていかなければいけない時代がきてしまいます。
使用する機器メーカーも一社でなく、様々なメーカーの機器が使用されるため、家族はもちろん、訪問看護師さんでも全てをフォローするのは難しくなると思います。
そこで、医療機器に精通した臨床工学技士の活躍が期待されています。
世界で活躍する日本の臨床工学技士
日本の臨床工学技士の方でアメリカや東南アジアなど海外で活躍されている方も多くいます。
日本の臨床工学技士の資格は医療機器に携わる仕事はどんなことにも関われますが、海外では事情が違ってきます。
アメリカの場合、①呼吸療法、②人工心肺、③機器管理などに携わる臨床工学技士はそれぞれ①「respiratory therapist」、②「perfusionist」、③「biomedical technologist」と呼び名も違っており、別の専門資格を取得しなければなりません。
日本の臨床工学技士の資格取得後、アメリカに渡って資格を取得して活躍されている方もいます。
日本の臨床工学技士の資格は様々な医療機器に関われるため、世界に誇れる資格だと思います。この知識と技術を世界へ向けて発信している人達がいます。
アジアの臨床工学技士はまだ臨床に関わることが少なく、バイオメディカルエンジニア(biomedical engineer)と呼ばれています。
中国では今後、透析患者が増えることが懸念されているため、日本の臨床工学技士を非常に注目しております。このため、日本の臨床工学技士が中国へ行って技術提供などを行なっています。
その他の国においても、病院建設に関わったり機器修理を行なったりと多くの支援をしております。
最近特にすごいと感じたのが、ミャンマーで各医療機器を安全・適正に使用する人材育成の養成校を立ち上げたことです。今後5年間、日本から臨床工学技士を派遣し人材育成を行なっていくそうです。
この様に臨床工学技士は病院内で様々な部署で活躍しています。また、病院内だけに留まらず、新しい技術開発や在宅、海外などで様々な活動を行なっております。
今後もより多くの医療機器に携わり、患者だけでなく看護師さんなどにも安全・安心な医療の提供ができる様になればいいと考えています(^_−)−☆