酸素療法中の患者さんが検査ためにCTや検査室への移動、転科やオペのために酸素ボンベを使用しながら移動することが多くあります。
病室で治療中は患者さんの容態が安定していても、移動中に使用者のミスが原因で容態が悪化してしまうということが数多くの病院から報告されています。
今回は移動時の酸素療法で知っておきたいポイントについてお話していきます。
酸素療法とは
ご存知の方も多いと思いますが、酸素療法の基本からお話していきます。
酸素は生命の維持に必要不可欠な物質で、動脈血中の酸素が不足した状態を低酸素血症と呼ばれています。
低酸素血症はチアノーゼ、頻脈、呼吸困難、意識障害などの症状が現れ、不整脈や心不全に至ることもあります。
低酸素血症の治療および予防を目的に吸入させる酸素濃度を高めて、低酸素状態を改善させる治療を酸素療法といいます。
酸素療法には低流量酸素療法、リザーバー付き酸素マスク、高流量酸素療法の3つがあります。
低流量酸素療法に使用する物品は鼻カニューラと
簡易酸素マスクがあります。
患者の一回換気量以下の酸素ガスを供給し、不足分は大気を吸入してもらいます。
リザーバー付き酸素マスクは簡易酸素マスクに袋がついて酸素を貯めることができ、高濃度の酸素吸入ができます。
高流量酸素療法にはベンチュリーマスクや
高流量鼻カニューラなどがあり、
患者の1回換気量以上の酸素ガスを供給することができ、設定した酸素濃度で吸入が可能となっています。
移動時·移動先での確認ポイント
移動前のポイント
まず、移動に使用する酸素ボンベを準備します。
その際に、移動中に酸素がなくならないよう、ボンベの中にどのくらいの酸素が残っているのか確認する必要があります。
しかし、確認できるものは付属している圧力計しかありません。これだと圧を量に変換する計算の必要があります。その後、どのくらいの時間、酸素使用が可能か計算する必要があるため不便ですね😅
このため、一目で酸素使用可能時間がわかる早見表の使用をオススメしています☝️
詳しくは過去記事を参照してください。
移動中のポイント
患者さんは移動中に患者要因や酸素セッティング間違いなどで容態変化を起こすことがあります。自分で意思表示できる人は気分が悪いことを教えてくれる場合もありますが、伝えられない場合もあります。このため、常に患者さんの容態に気をつけなければいけません。
呼吸状態の観察
頻呼吸や努力性呼吸になっていないか
全身状態の観察
チアノーゼや
意識状態が低下していないか常に意識して見ていく必要があります。
移動先でのポイント
移動先に着いたら酸素の残量に関わらず壁配管に接続しましょう。検査中にボンベ残量がなくなってしまったり、帰室用の酸素がなくなる危険性があります。また、コスト面でも壁配管から使用した方が安い場合があります。
帰室時のポイント
帰室時は移動を開始する前に酸素ボンベの残量を確認しましょう。病室を出るときには酸素残量が多くあったのに、確認すると思っていた以上に残量がなくなっているケースが少なくないので気をつけましょう。
移動を開始する前に酸素残量早見表で酸素使用可能時間を確認すると、安全に帰ることができます。
アクシデント事例
多くの病院で酸素ボンベに伴うアクシデントが発生しております。その一部を紹介していきます。
アクシデント事例①
酸素投与中の患者さんを検査のために移動を開始しました。移動開始の数分後に患者さんが呼吸苦を訴えました。SPO2を測定すると80台まで低下していました。
原因:原因を確認すると酸素ボンベのバルブが閉じていて、患者さんに酸素投与されていませんでした。
発生要因: 使用前にボンベの圧力ゲージが高くかったため、バルブが開いていると勘違いしてしまった。
対策:バルブが開いていることをしっかり確認する。また、勘違いを起こさないためにも、使用後はバルブを閉じた後に圧抜き(溜まっている酸素を放出)を行ってください。
アクシデント事例②
酸素投与中の患者さんを検査のために移動を開始し、移動中は問題ありませんでした。
移動先では壁配管に接続して治療を行っていました。検査中に呼吸苦を訴えました。
原因:看護師さんを読ん原因を確認してもらったところ、酸素流量が少なく設定されていました。
発生要因:酸素ボンベから壁配管に付け替える際に、設定の確認不足で流量を少なく設定してしまいました。
対策:移動先でも指示書を見てダブルチェックを行うようにして下さい。
アクシデント③
酸素投与中の患者さんを検査のために移動し、移動中・検査中は問題ありませんでした。帰室時、チアノーゼ症状出現。原因がわからず、急いで病棟に戻ってSPO2を測定したところ70台まで低下していました。
原因:酸素ボンベの残量が0であった。患者さんへの治療が落ち着いて、酸素ボンベを片付けようとしたところ残量がないことに気が付きました。
発生要因:①帰室時に残量確認を怠ってしまい、酸素ボンベの残量が少なくなっていたことに気がつかなかった。②流量計のゴムパッキンが劣化していたため空気が漏れていた。
対策:帰室時にも残量早見表で使用可能時間の確認を行って下さい。また、流量計のゴムパッキンを定期的に交換して酸素が漏れないようにすることも大切です。
最後に、移動中に患者さんが容態変化することは決して少ないことではありません。今回お伝えしたアクシデントはその一部です。移動中も安全な酸素療法が継続できるよう、移動開始時・移動中・移動先でのポイントを理解していただけると嬉しいです🤗