看護師さんが知らないと損するコツを臨床工学技士が伝授します

毎日多くの看護師さんや先生から医療機器の使用方法や操作のコツについて相談を受けます。頂いた相談に対する答えをブログを通してみなさんに伝えることにより、少しでも多くの人の悩みや疑問を解消できるお手伝ができればと思いブログの開設を行いました。

吸引器の設定圧について

今回は吸引器の設定圧についてお話していきます。

 

皆さんご存知だと思いますが、吸引とは、痰や唾液、鼻汁などを自分の力だけでは十分に出せない場合に、器械を使って出す手伝いをすることを言います。

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痰や唾液を取り除くことで、呼吸を楽にし、無気肺や窒息の予防、肺炎などの感染症を予防することができます。

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痰の吸引については以下のサイトで詳しく記入されており、とても勉強になります。

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2012/07/27/1323015_6.pdf

 

目次 

 

吸引器の設定圧

吸引を行う際、吸引器の圧設定を行わなければいけません。皆さんは正しい吸引器の設定圧をご存知でしょうか?何となく設定したり、設定されているままの吸引圧で吸引を行ない、場合によっては痰の引きが悪いからと高陰圧設定にしていることはないでしょうか?

 

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正しい吸引圧の設定は以下の値が推奨されています。

 

設定圧力

新生児

-13kpa-100mmHg)以下

 

小児

-15kpa-113mmHg)以下

成人

-20kpa-150mmHg)以下

 

 

一度、自分たちが使用している吸引器の設定圧力を確認してみてください。-50kpaや-60kpaなどと推奨値より大きくかけ離れた設定になっていないでしょうか?

 

 吸引の副作用

吸引の副作用として以下のことなどが発生する危険性があります。

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吸引圧が高陰圧になっていると副作用が発生する危険性が高くなってしまいますので正しい設定圧で吸引を行うことが重要です。

 

 吸引の副作用で発生頻度が特に高いのは、鼻腔、気管支粘膜等の損傷だと思います。

鼻腔、気管支粘膜等が損傷すると出血を引き起こすことがあります。

 

痰が硬くて引けないからといって高陰圧にすると下の写真のように大量出血を引き起こす要因になりかねません。

 

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しかし、成人の患者さんに吸引圧設定が−20Kpaではどうしても痰が引ききれないじゃないか💢とい意見があるのも事実だと思います。

 

吸引できない原因と対処方法

吸引できない原因は以下の2点が考えられます。

①粘度が高くて吸引できない。

②痰が吸引できない位置にある。

 

粘度が高くて吸引できない場合の対応方法

①皮膚や口腔内の乾燥がないかなど、水分バランスに問題ないか確認し、問題がある場合は水分補給を行って下さい。

 

ネブライザーなどによって気道の温度・湿度の管理を行い、肺や気道の分泌液と繊毛運動促進を行い、痰が出やすい気道の状態にして下さい。

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肺内からの分泌物や外部からの異物は気道の繊毛運動によって押し出されます。しかし、繊毛運動はいつも同じ動きを行なっている訳ではなく、温度と湿度が低下すると動きが鈍くなります。

 

温度と湿度の変化により気道の繊毛運動がどのように変化しているかの動画を以下に紹介いたします。

www.youtube.com

 

 

 

 

 痰が吸引できない位置にある場合の対応方法

①呼吸理学療法によって胸郭や呼吸に必要な筋肉を柔らかくし、呼吸に関わる筋力を向上させることで、痰が出しやすくなります。

 

②痰が重力によって上から下に降りるようにポジショニングを行い、痰が吸引できる位置に来るようにします。 

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上記のような対応方法により痰を出やすくすることができます。

 

 

 

吸引器使用時の注意事項

 

①吸引圧設定方法間違い

成人で推奨されている吸引圧は20Kpaですので、吸引器の設定を20Kpaに設定します。

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吸引圧設定後、吸引チューブを取り付けて患者さんに吸引中に圧力計を見ると、いつの間にか30Kpaになってしまっていることがあります。

 

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これは、吸引圧設定方法の間違えによって起こります。

 

吸引圧設定時、吸引ホースを接続していなかったり吸引ホースが解放したままになっていると、空気を吸ってしまうので陰圧が保てなくなってしまいます。

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吸引ホースに吸引チューブを接続しただけで、20Kpaから25Kpaへ変わってしまうことがあります。このため、吸引圧設定時は吸引ホースを閉塞した状態で行うようにしましょう。

 

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②二又を使用した吸引


壁配管の吸引アウトレットの数が少ないためY字管を使用して二又にしたり、吸引器に二又用コネクタを接続して二人に使用できるようにしている場合があります。

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この場合、一人のみの吸引であれば問題ないですが、二人同時に吸引を行うと設定していた圧とズレが生じてしまい、痰が引けないと言うことが起こってしまいます。

 

壁配管の吸引アウトレットを増やしてもらえるのが一番良いですが、なかなかそうゆう訳にもいかないと思いますので、二股を使用してい場合の吸引は一人のみで行うことが良いと思います。

 

 

③吸引ができない

 

「吸引圧がしっかり設定されているのに全然吸引できない。機械が壊れちゃったのかな?」と言うような相談を受けることがあります。

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吸引器には、廃液タンクから溢れて壁側配管に痰などが流れていかないようにフィルターが付いています。

 

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廃液タンクが溢れないで使用していた場合でも、水蒸気などで少しずつ水分などがフィルターに付着することで目詰まりを起こすことがあります。

 

目詰まりを起こすと右側の写真のようにフィルターが黒ずんできます。定期的にフィルターを確認し、黒ずんでいる場合には交換が必要になります。

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上記の写真の吸引器(フィットフィックス)フィルターの添付文書を確認しましたが、交換時期が記入されていなかったため販売している会社に確認したところ、1年程度での交換を推奨しているとのことでした。

 

 


フィルターが目詰まりを起こしている場合、廃液タンクが接続されていない場合でも高陰圧が掛かっている事がありますので、交換時に圧力を確認すると目詰まりがあるかわかる場合があります。

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また、吸引圧が–20Kpaを表示していてもフィルターの一部が目詰まりを起こしている場合だと、吸引チューブ先端の圧力は−10Kpaになってしまう事があり、吸引の引きが悪くなってしまう事がありますので、定期的にフィルターの交換が重要になります。

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まとめ

 

吸引器の設定圧は以下値が推奨されています。一度自分たちが使用している吸引器の設定圧の確認を行い、ズレている場合は調整を行なってみてください。

 

設定圧力

新生児

-13kpa-100mmHg)以下

 

小児

-15kpa-113mmHg)以下

成人

-20kpa-150mmHg)以下

 

 

粘度が高く吸引できない場合や吸引できない位置に痰がある場合は、吸引圧を変更することだけでなく、気道の温度・湿度管理や水分バランス、呼吸理学療法やポジショニングを行うことで痰が取りやすくなる事がありますので、Drと相談して治療方法の検討を行なってみてください🤗

 

 

 


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