看護師さんが知らないと損するコツを臨床工学技士が伝授します

毎日多くの看護師さんや先生から医療機器の使用方法や操作のコツについて相談を受けます。頂いた相談に対する答えをブログを通してみなさんに伝えることにより、少しでも多くの人の悩みや疑問を解消できるお手伝ができればと思いブログの開設を行いました。

保育器の歴史と保育器に求められる機能について

今回は、保育器の歴史と保育器に求められる機能について説明していきます。

 

目次

  

保育器の歴史

保育器の歴史は意外と古く、1800年代にヨーロッパで浴槽型の保育器の作製が行われました。浴槽の壁が二重構造になっており、その中にお湯を満たすことで保温機能を持たせていました。

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病院で頻繁に使用されている輸液ポンプ・シリンジポンプを見てみると、1970年に国産初のシリンジポンプ作成、1970年頃に輸液ポンプ作成され、1975年に輸液ポンプが輸入されたことを考えると、とても古い歴史があります。

 

浴槽型の保育器は少しずつ改良され、フード取付型で電気で温めるタイプの開発などが行われました。

 

 

しかし、現在使用されている保育器は鳥類などの卵を人工孵化させるための装置である孵卵器をヒントに開発されました。

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Lionの保育器(大正時代の医療器械カタログより)

 

ガスや電気、温湯などを用いて温度環境を調節できるようになり、さらに、加熱に対する安全装置や児の観察に便利な工夫がほどこされるようになってきました。

 

 

下の写真は、左が大正末期~昭和初期、右が昭和7~8年頃に輸入され使用されていた木製保育器になります。

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その後、国産初の近代的保育器N-52が1952(昭和27)に千代田医理科器械株式会社(アトムメディカル)から発売されました。

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1955(昭和30)には強制換気方式により、保育環境が一段と向上したV-55が販売されています。

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国内では1955(昭和30)頃から保育器が普及し始めました。

 

 

新生児死亡数·死亡率の推移

1951年の新生児死亡率は27.5%ととても高い値でしたが、保育器などの医療機器の発展と医療技術の向上により現在では0.9%となっており、世界で最も赤ちゃんが安全に生まれる国になっています。

 

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保育器に求められる機能

閉鎖式保育器は、未熟性の高い出生直後の新生児を収容する生命維持管理装置で、保温・加湿・酸素投与・感染防止・騒音対策が重要です。

 

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各項目について説明していきます。

 

①保

体温は、熱産生と熱損失のバランスによって維持されています。

 

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熱損失が大きくなると、バランスを整えるため熱産生を上げようとします。

 

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新生児は、成人に比べ 体重あたりの体表面積が大きく、皮膚・皮下組織も薄いため、熱損失が大きくなりやすいです。また、新生児の熱産生の発現部位は、主として褐色脂肪組織です。成人のように骨格筋の小刻みな収縮によって熱が発生することがないため効率が悪くなっています。

 

 また、体温を維持するために多くのエネルギーを使ってしまうと、成長のために使うべきエネルギーが足りなくなってしまうため、適切な温度環境でなければ発達予後に影響が出てしまいます。このため、しっかりとした保温対策を行わなければいけません。

 

 

新生児の熱損失

新生児の熱損失には輻射・蒸散・対流・伝導の4つのルートがあります。

 

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輻射

熱輻射とは、物体から熱エネルギーが電磁波(主に赤外線)として放出される現象のことを言います。

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少しわかりにくいですね。

テレビなどで一度は見たことのあるサーモグラフィーで説明していきますね。

 

サーモグラフィーのような温度計測装置は、物体から放射されている電磁波をキャッチして、その波長を温度換算して表示させるという仕組みになっています。

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いつサーモグラフィーを向けられても、温度によって色の違いが表示されると思います。これは、常に電磁波を放出しているためです。

  

輻射は温度が高い方から低い方へ電磁波による熱の移動が起こります。

 

赤ちゃんの体温と環境温の差が大きい程、輻射による熱損失は大きくなりますので、体温が下がらないように保育器などで赤ちゃんにあった環境を作らなければいけません。 

 

 

 蒸散

赤ちゃんの皮膚から汗により水分が水蒸気になって外に発散することを言います。この際に、液体の気化熱による熱損失現象が起こり、体温が低下します。

 

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成人の水分量は体重の約60%であるのに対して、赤ちゃんの水分含有率は体重の約70〜80%と非常に高いです。

 

また、新陳代謝が活発であるため、蒸散による体温低下が起きやすくなります。

 

これを防ぐために、環境湿度の調整が必要になります。

 

 

対流

温度差によって生じた流体の移動によって、熱が運ばれる現象を言います。

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送風機能をもたないストーブを例に説明すると、ストーブ近くの空気は温められ、まわりの空気よりも軽くなるため上昇していきます。これと入替ってまわりの低温の空気がストーブ近くに引寄せられてくるので空気の流れが発生します。

 

 このように、赤ちゃんの体温と環境温に温度差があると空気の流れが発生します。温度差があると空気の流れによって高い方から低い方へ熱が移動してしまうため、赤ちゃんの体温が下がってしまいます。

 

 

伝導

 熱が物体の高温部から低温部に移る現象を言います。

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赤ちゃんが触れているマットや心電図のパッドを通して熱が高い方から低い方へ移動することを言います。授乳後に嘔吐したミルクなどで濡れている場合、熱損失が大きくなってしまうので特に注意が必要になります。

 

 

保温対策

赤ちゃんを処置するために、必要に応じて保育器の扉を開けることがあります。この際、開けた窓部分から暖かい空気が逃げてしまうと保育器内の温度が保てなくなり、赤ちゃんの体温が低下してしまいます。

 

温度低下が起こらないように保育器には工夫が施されているものがあります。保育器の外壁だけでなく内にも壁を作り、保育器の下から温度と湿度が調整された空気を送る事によりエアカーテンを作成し、扉を開けても温度が下がりにくいように工夫されています。

 

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②加湿

蒸散によって体温が奪われるのを防ぐためには、湿度を高くする必要があります。適正な湿度は50〜60%と言われています。

 

しかし、在胎週数が短く日齢が若いほど、皮膚が未成熟で熱損失が大きくなってしまいます。

 

一般的に生後2〜5日までに10%未満の生理的体重減少が起こりますが、超低出生体重児は体重が20%減少するほど水分喪失が起きてしまいます。

 

このため、体温を保つために保育器内の湿度を90%以上に保つ必要となることがあります。

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③酸素投与

まだ肺が十分に発達しきらず生まれてきた新生児は、酸素濃度投与が必要になることがあります。

 

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高濃度の酸素を投与した場合、未熟児網膜症の危険性があります。

 

設定された濃度で安定して酸素投与を行うことで、不必要に高濃度の酸素投与することがなく、低酸素血症の改善をすることができます。

 

 

④感染防止

在胎週数が短いほどお母さんからもらえる抗体量が少ないため、感染リスクが高まってしまいます。

 

保育器内は高温・高加湿で使用されるため、細菌が繁殖しやすくなってしまいます。


保育器に入れる空気に含まれている埃や細菌侵入をフィルターで防ぐことで感染防止に役立てています。

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⑤騒音対策

新生児、特に早産時は大人に比べて極めて音に敏感であり、過度の音は頭蓋内圧上昇、低酸素血症を引き起こすといわれています。

 

①〜④の機能を満たしていても、環境音が大きいと落ちつかない空間になってしまいますね。

 

国際電気標準会議IEC)の規格では、保育器内の騒音レベルは60B以下と定められています。

 

また、治療時に扉の開け閉めがありますが、開ける時に「バタン」、閉める時に「カチッ」と音がしたりすると赤ちゃんは「ビクッ」っとなってしまうことがあります。

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このようなことが起きないよう、開け閉め時に大きな音が出ないよう工夫が施されている保育器も販売されています。

 

 

さいごに

 今回は保育器の歴史から、求められている機能についてお話させていただきました。

赤ちゃんは何らかの理由で予定より早く生まれて来ることがあります。そのような時でも赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいるように安心して過ごせる空間作りがとても重要になります。

 

また、最近の保育器には聴覚への刺激促進機能を組み込み、お母さんの心拍音や声を聞かせたり、赤ちゃんをあやしたり、気持ちを落ち着かせたりすることができるものまで販売されています。

 

多くのメーカーで医療医者の操作性向上と、赤ちゃんへより良い空間を提供していけるように技術開発をしており、とても素晴らしいと感じています。

 

 

 


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